スマートシティ対談×黒澤武邦さん

世界各国で進んでいる「スマートシティプロジェクト」。川崎市でも今春から具体的な取り組みが始まるのを受け、政治信念のひとつとして実現化に向け活動してきた月本たくやが都市計画学の専門家・黒澤武邦氏と今後の展開について意見を交わした。

月本―川崎モデルのスマートシティの実現を公約にし、議員活動を始めてもうすぐ2年ですが、川崎市でのスマート化は前進しました。しかし、まだスマートシティという言葉が一般化されていないため、難しいという声も多いですね。

黒澤―「スマート」とは「賢い」という意味で、これからは「ITを駆使し、賢いまちづくり、地域づくり」をしていこうというコンセプトです。世界的に「スマートシティ」の名のもとに、次世代型のインフラ整備が進んでいます。欧米・中国をはじめ、先進国の再開発でも、新興国の開発でも、積極的に取り組まれています。特に持続可能な都市づくりを目指し、エネルギー分野に関するプロジェクトが多いようです。日本でも東日本大震災以来、エネルギー政策はより大きな課題となっています。

月本―川崎市では、臨海部にメガソーラーを始め、火力、天然ガス、バイオマスなど様々な発電施設が集積しているポテンシャルがあり、スマートシティ実現に向け、日本を代表する土壌があります。

黒澤―海外の事例でも、スマートシティは、環境、交通、医療、教育など市民生活とも密接に関係してきます。ハードとソフトの両面のスマート化です。川崎市でも、積極的に取り組みがなされているようですね。

月本―ようやく、エネルギーの分野に限定されず、様々な分野へスマートの要素を取り入れて行くという方針が根付き始めました。

昨春から川崎市にスマートシティ戦略室が設置され、具体化されています。川崎駅周辺地区をはじめ、富士見地区や臨海部という地域が対象になります。さらに、武蔵小杉周辺地区では、市民生活の利便性向上を主軸としたスマート化が検討されようとしています。

黒澤―例えば、川崎市で進める際、どのような政策分野のスマート化を検討すべきと考えますか?

月本―まず、教育の分野では、昨年に韓国で視察した、韓国とオーストラリアの学校をテレビ会議システムでつなぎ、語学と文化を互いに学ぶ国際教育プログラムを川崎でできないかと思っています。また、麻生区では、県道世田谷町田線とその周辺の渋滞から、山坂の多い地形という課題があり、交通に関する大きな課題があります。これも、スマートの要素を活用すれば、リアルタイムでの交通情報だけでなく、時間帯予測も可能になり、特にバスの到着時間が明確になることにより、公共交通機関の利用が促進され、渋滞緩和につながります。これらの分野を始め、行政サービス、安全安心、医療福祉などの検討を進めるべきです。

黒澤―スマートシティの多くは、ビジネス主導で進められています。都市というと土建のイメージですが、ありとあらゆる産業が関係してきます。地域活性化のチャンスでもあります。進めていく上での課題は?

月本―今春からの川崎駅周辺地区のモデル事業に民間企業2社が提案し、具体化に向け、期待が高まっています。しかし、事業への経済的な助成が行われないため、ベンチャーや中小企業の新規参入への壁が高いことが課題と言えます。

黒澤―対象が都市である以上、その地方自治を預かる行政と議会の役割も重要です。産業としての裾野を広げる為にも規制緩和や助成制度も必要になってきます。首長のリーダーシップや議会の理解は不可欠です。

月本―議員として、スマートシティの可能性を探るため、一昨年の秋に勉強会を立ち上げ、有識者からヒアリングをして、議会質問や副市長への面談など行政側へ提言を進めました。先月の衆議院選挙におけるみんなの党のアジェンダにもスマートシティの推進が盛り込まれています。

黒澤―官民連携という視点から、横浜市のたまプラーザ駅周辺地区では、郊外ベッドタウンの再開発がスマートシティを踏まえ、検討されています。川崎市でも同じような課題があるのではないでしょうか?

月本―駅と周辺住宅、そして老朽化した団地という事情は、川崎市でも新百合ケ丘や百合ケ丘、宮前平も同じような課題を持っています。既存都市のスマート化は、子どもからお年寄りまで、幅広い世帯が暮らせる環境をつくっていくことが最終目標で、先ほどの教育や交通などに加え、医療や福祉の分野でも必要になっています。横浜市のように、官民連携のスタイルでまちづくりを進めることが、成功への鍵であると考えます。

黒澤―韓国やシンガポールは、国を挙げてスマートシティをパッケージ化した「都市輸出」に力を入れています。日本は遅れをとっていますが、建設技術も省エネ技術も世界トップレベルです。国としてどう売っていくのか戦略が重要です。川崎市の取り組みが日本のモデルとなることを期待します。