ニーズよりトレンド
「ニーズよりトレンド」と言う言葉は、宮崎県綾町の町長を務められた故 郷田實氏の著書「結いの心―綾の町づくりはなぜ成功したか」で使われています。
ニーズではなく、その先の潮流を考え、つかんでいくということで、市民ニーズにそのまま応えるというのではなく、ニーズがなくてもトレンドをつかんで先に政策を打ち立てていくスタイルを郷田町長は取り入れ、綾町を活性化していきました。
今年の春から地域包括ケアシステムのなかで「地域で子育て」ということがクローズアップされています。
地域みんなで支え合うという理想については共感しますが、核家族で地域との結びつきが少なくなっているいま、何をもって実現していくのかが非常に難しいところです。
子育てのニーズと言えば、中学校給食、保育所定員拡大、小児医療費助成拡充などが挙げられ、それに対応するのが「政治」という側面があります。しかし、「政治」の役割はただただニーズに応えるのではなく、将来を考えて先回りし、市の方針をしっかり定め、その方向に進んでいくというトレンドをつくっていくことが大切です。
外遊びのニーズ
例えば、平成25年2月に行われた「こどもと一緒コンサート」のアンケート結果から、行政に期待することの第一位が「近くで遊べる公園や広場の充実」でした。
また、平成26年に実施された第1回子育てフェスタのアンケート結果では、「子育てにおいて、今もっとも必要なもの」として、「パパ・ママ親子で一緒に遊べる身近な公園や機会」を求める声が半数弱あり、その理由として、「室内ばかりでなく外で遊べる場所がほしい」という意見も出ています。
そして、翌年の第2回子育てフェスタのアンケート結果では同じ回答が6割近くあったと伺っております。
そもそも麻生区は、川崎市内で面積が広く、数も多いため、充足していると言われていますし、公園についての情報は、かわさき子育てアプリを始めとしたWeb等での入手が可能で、近所の公園を利用したことはあると想定されるため、情報不足での意見とは捉え難いところです。
すると、川崎市で最も公園が身近にあるはずの麻生区ですから、公園そのものがあるかというよりも、利用しやすい公園かどうかということが課題と捉えられます。
例えば、未就学児が遊ぶ公園で小学生がボール遊びをすることが危険ということで、利用しがたいという面があります。
砂場のような小さい子どもが遊ぶスペースはネットで囲われていて、周りで小学生がボール遊びをしていても、安全な公園もあります。
先ほどの平成27年の子育てフェスタのアンケートは未就学児の親が多かったため、このような対応をとることも一つの解決方法になります。
父親の子育て参加
男性の育児休業取得率を上げて行こうという声は年々増しているものの、諸外国で取得率が上がっても、育児参加にそれほど効果が上がっていない事例もあり、数値的な取得率アップだけでは、何の解決にもつながりません。
現在、未就学児だけでなく小学生の親でも子育ての孤独や不安を感じていたり、リフレッシュを求めていたりというケースがあり、その多くは母親の声なき声と言われています。この心の中の声を解決する手法として父親の育児への積極的な参加が求められます。
麻生区では、両親学級のような妊娠期のものだけでなく、親子で一緒に遊ぶイベントや今年度から、「地域子育て支援センターみなみゆりがおか」で父と子や父親同士の交流の場の提供を目的としたイベントが実施されました。これからも、地域での取り組みの拡大がはかられるべきと思います。
公園を活用した地域での子育てを
父親の子育て参加の機会としては、親子で遊びがもっとも身近な方法で、遊び方に悩んでいるケースへの対応策としては、地域活動に楽しく参加していくことが、その第一歩になると考えられます。
11月に栗木台すげ沢公園で、多世代が一緒に参加するイベントを開催されました。この公園は市の動労公園センターの直営です。そこで、普段から公園を見守る人たちとの関わることで、実際に地域参加のきっかけも作れ、さらに有効ですので、今後は管理運営協議会や愛護会等が管理する公園での開催を提案しました。
外遊びの課題や父親の育児参加の課題を解決するためには、地域での子育てが重要で、安心して遊べる場所を作るために、今申し上げた公園の例のような地域交流の機会づくりや仕掛けづくりが大切になります。
また、子どもが生まれて親になるという法律上の親ということだけでなく、子育てや教育を行う意味で親になるための「親教育」の機会が重要です。
幼稚園の2歳児保育の取り組みが親教育の機会の提供という側面があるので、地域での子育ては、一朝一夕に進められるものではありませんが、親の精神面での負担軽減につながる可能性もありますので、公園が地域の子育ての役割を大きく担っていくため、活用を求めています。
質問を通じて
郷田實氏の本は、実は麻生区内在住の方から頂き、10月の海外視察の移動中に読んだもので、いろいろな面で刺激を受けました。
また、地域での子育ての話になると、地域包括ケアシステムとの関係性が出て来ます。
地域包括ケアシステムという地域での支え合いという大前提のビジョンは美しいのですが、それが実態としてどのように機能していくかの議論がありました。個人的な見解としては高齢者の生活環境としては依然厳しいところが多いと思いますが、子育ての場面については、元気なシニア層の力を活用できる場面もあり、麻生区ではそのような取り組みが進められている点において、支え合いの観点でのプラス面ではないかと思います。
今後は、行政は子育ての単なる情報提供というのではなく、公園を活用するケースのように一緒になって支えていくという機会を作っていくようにできればと思います。