12月10日のこと。
一人の偉大な人物の命が尽きようとしている。
学生時代から渡辺美智雄事務所に入って、政治の道を35年生きて来た秘書の大先輩。
信念を持って新しい時代をつくる黒子に徹し、多くの人材を輩出してきた。
最期に会ったとき、私の顔を見て、
「来なくていいのに」
と照れながら一言。
続いて、
「一端の市会議員になった」
と。
お世辞でも嬉しかった。
上下の隔たりなく、人を大切にする人。
今生の別れを受け入れなければいけない帰り道。
私は涙しか流せなかった。
私が毎朝心の中で呟く2つの言葉
一つは地元の大先輩の言葉。
「麻生区にいるときは、麻生区のことを考えろ。麻生区を一歩出たら川崎市全体のことろ考えろ」
そして、もう一つの言葉は、四年半前、私が初当選した時に、この方が贈ってくれたお祝いの言葉。
「秘書やってたら、人のためには何でもできるけど、自分のために出来ないもんなんだよね。でも、これからは、そうじゃないよ」
この言葉は周囲を気にし過ぎる秘書の性分から、政治家になって変わるべきこととして「自分の信念を貫け。リーダーとして」という意味を私の身体に浸透しやすく表現してくれたもの。
上下分け隔てのない人
正式な上司部下関係なったことはないが、事実上の上司だった1年の期間にたくさんのことをご指導頂いた。
そもそも、初めて出会ったときのことである。
この方が政策担当秘書を務める事務所で打ち合わせがあり、私は事務所の上司と一緒にこの事務所を訪問。
打ち合わせが終わると、エレベーターホールまで来て、扉が締まるまで見送ってくれた。
一度や二度ではなくいつも。
後輩の立場では恐縮してしまうが、誰に対してでもそうする姿を見て、私もそうありたいと思った。
心を察する人
この方は人懐っこい栃木弁で、冗談話と冗談っぽい表現でいつもおちゃらけているのに、要所は締め、困っていたり悩んでいると、そこにサッと手をさしのべる。
秘書時代に党本部事務局を兼任しているときだった。
ある地方選挙区の落選した参議院候補者の選挙違反の問題で、私が事情聴取を受けることになった。
私は根も葉もなく関係なかったわけだが、それでも事情聴取を受けるというのは、どれだけ関係ないと思っていても、不安になるもの。
「月本さんは、間違いなんだから、自信持って話してあげたらいいよ」
と送り出してくれ、事情聴取が始まると、突然部屋に現れました。
「どうぞやって下さい。私、ここで聴いてるだけですから」
と部屋の片隅にニコニコ座っている。
この日の朝、
「ないとは思うけど、もしかしたらしばらく帰れないかもしれない」
と私は、万が一どころか、億に一つぐらいの可能性を妻に告げて家を出た。
選挙違反は、自分自身で気づかないところで違反をしている可能性がある。
法律を熟知しているつもりであっても、そのつもりという驕りが違反を引き起こすケースをたくさん見てきている故に、自分が例外ではないと思っているからだ。
そんな私にとって、この方の言葉と立会いが如何に支えになったことか。
結果、1時間程度の事情聴取と昼を挟んでその調書の確認の30分で、私が全く関係していなかったという事実が確認された。
今年最後の私の質問を前に
12月17日、私は本会議の一般質問ラストバッターだった。
質問に入る直前の3時休憩で訃報を受ける。
一週間前に会って、覚悟はしていたが、悲しみが込み上げた。
でも、背中を押された気がした。
「一端の市会議員なんだから」
奇しくも、この日、私は主権者教育で選挙違反を起こさないための質問を行った。
感謝
享年59歳。
悲しいです。
私は直接一緒に仕事をしたのはたった1年でしたが、濃い1年であり、またその後もお付き合いさせて頂きました。
昭和から平成の政治史の裏方で時代の礎を築いて来られた、これまでのご功績に敬意とご厚情に感謝を申し上げます。
ありがとうございました。