人権条例について

今議会で注目されている川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例。

この条例は、「すべての差別をなくす」と言う理念があります。これは、国籍、出身、性別、障がいの有無を始めとした、自分では変えることのできない状況にある人に対しての不当な差別的言動を行わせないということです。

ここで、「ヘイトスピーチ」という言葉が、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」という一般的な解釈になっていますが、ヘイトスピーチは不当な差別的言動であり、本邦外出身者に対するものに限定されるわけではありません。「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が、ヘイトスピーチ解消法と通称で呼ばれていますが、言うなれば「本邦外出身者へのヘイトスピーチ解消法」です。

今回の条例は、川崎市の一部地域で激しくヘイトスピーチが行われたということをもとに、全国初のヘイトスピーチへの罰則と言うことで注目されていますが、条例の複雑な構造と、条例制定にあたる懸念があり、すんなりと通過するべきものではありませんでした。

そもそも、条例を制定することで、

「罰則規定を設けることで表現の自由について委縮させてしまうのではないか?」

「本邦外出身者だけに罰則規定を設けるのであれば、他のヘイトスピーチは規制されないのではないか?」

「特定分野として本邦外出身者にすることで、却って差別を生み、対立構造をつくり、ヘイトスピーチを行っている団体を挑発し、激化してしまうのではないか?」

「本邦外出身者の市民と本邦外出身者以外の市民に溝をつくることにならないか」

などの懸念が示されています。

実際に国の法律の範囲内で条例を定める上で、差別の禁止をすべての人権に対して謳っていて、対象が広がっています。これは憲法による法の下の平等からすべてを対象とすることは理解できますが、特定分野だけに罰則を設けるということで、わかりにくい構造になってしまっています。

このような条例審議が始まり、歪な構造、周知不足、安全性の担保などのポイントを整理していく必要がありました。

 

第一に、「差別のない人権尊重のまちづくり条例」なのに、特定分野として本邦外出身者へのヘイトスピーチだけ罰則対象としていること。国の法律のもとに市の条例をつくるという観点で行くと、本邦外出身者に対するヘイトスピーチの解消条例であれば理解できますが、そうではない。この理由としては、特定分野に限らず、すべての差別はやめようという理念のもとにあるということ。国の法律は、先ほどの本邦外出身者に対するもので、附帯決議で、「本邦外出身者以外に対する不当な差別的言動」が許されるわけではないということになっています。この点については本条例の前提として「すべての差別」を禁止しています。

次に、特定分野(本邦外出身者に対する不当な差別)だけ罰則規定を設けているのはいかがなものか?ということが一つの大きなポイントになりました。ここは大きな問題です。しかし、すべての差別に罰則規定を設ける上で、課題があるということでの特定分野の設定であるとのことです。

でも、特定分野の差別的な言動と捉えられることがあると、「ちょっと言葉を間違えると、すぐに捕まっちゃう」「相手が本邦外の人なら、売り言葉に買い言葉が捕まる」と思われるかもしれません。しかし、今回の条例における罰則対象は、「繰り返し」行われていることが前提になることを確認しました。

第二に、解釈指針ができていないこと。差別用語というのは様々で、差別的言動ももしかしたら言っているかもしれないと考える人は「自分も捕まったらどうしよう」なんて思っていることもあり  ます。そこで、言葉や文章、その言葉を発する状況などを示していくことが重要で、何がヘイトスピーチにあたるかを周知していかなければいけません。

第三に、差別等審査会委員が中立な考え方の持ち主を選任できるかということです。議会の同意人事により選任される委員ではないため、この点に心配が残ります。

第四に、差別等審査会委員と担当職員の安全性の担保です。まず、ヘイト認定するかどうかは、差別等審査会の意見によります。他都市の条例では罰則対象にならないので、ヘイト認定に留まりますが、今回の条例では罰則対象なるので、これまでよりも委員はリスクを負います。さらに、ヘイトスピーチを行っている者に対し、担当職員がその氏名等を確認するわけですが、その際に危険を伴う可能性もあります。今回の条例が制定されることで、ヘイトスピーチを行う団体を挑発する恐れがあり、激化するリスクがあるとも考えます。そこで、市の担当部署への警察官の出向および関係機関との連携をはかっていくべきで、この点について市民文化局長にも念押しをしました。

 

全国から様々な意見を頂き、この条例案は、課題がたくさんあることを確認しています。しかしながら、課題を指摘するだけで、「反対派」「差別問題に理解がない」というレッテルを張られ、冷静な議論を欠き、感情的に詰められることがありました。課題解決により前向きな議論をするのではなく、一つの発言について政治的な利用をし、「慎重な議論」「冷静な議論」を阻害しようとする動きと思われることがあったのも事実です。

条例の内容に課題が多くあります。しかし、不当な差別はあってはならないものの、「口が滑った」「ちょっと感情的になってしまった」というレベルで直ちに罰則を受けることではないということを確認しました。この点で、表現が委縮されないように、運用の在り方、実体について、周知を務めていくことは重要であると考えます。また、条例施行までに解釈指針ができるということで、この内容についてもバランスの欠くことのないように、議会として注視していくことができることも確認しました。

今定例会では継続審議をすべきと当初は考えました。しかし、文教委員会で自民党と吉沢章子議員より継続審議の申し出があったものの、継続が否決される見通しになったため、「賛成」、「附帯決議による賛成」、「反対」という採決態度の選択肢になりました。

最後まで悩んだのは、「この条例ができることで、人命にかかわることがあってはいけないこと」でした。警察の対応もあり、この条例により、一般市民へのリスクが拡大する可能性は高くないと予測されます。しかしながら、前線の職員のリスクが大きいため、私は担当職員の安全性の担保を市長・副市長・市民文化局長により重く捉えてもらい、しっかりした対応をはかってもらうことを確認しました。

条例案に反対することで、一部から「すべてを反対」「差別主義者」と言うレッテルを張られた中で提案することよりも、附帯決議付の賛成した上で、様々な課題を解決できるよう、条例施行までも条例施行後も含め、今後の運用に対し、冷静な対応を進めて行けるよう、改めて取り組んでいきたいと考えています。